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    磁性流体シール

    解説編

    はじめに

    磁性流体という概念は1931年にBitterによってマグネタイトの微粒子を界面活性剤を用いて分散させた水溶液が最初であるといわれています。いわゆるビッター液と呼ばれ、磁性物質の磁区形状を観察目的のために使われました。今日のように磁性流体が機能材料として認知されてシールに応用されたものは1965年にNASAのアポロ計画で宇宙機器、宇宙服の回転部分の機密保持を目的としたものが最初といわれています。その後磁性流体シールは、半導体装置や各種分析装置などの真空機器の発達により、現在ではこれらの機能を左右する不可欠な機械要素として位置付けられています。

    磁性流体とは

    磁性微粒子を界面活性剤を用いて安定に分散させた液体で「強磁性」という磁性体としての性質と「流動性」という液体の性質を兼ね備えています。ここで用いられる磁性微粒子は磁場下では磁気モーメントがそれに配向しますが無磁場下では熱的じょう乱によって全く自由な方向を向くという、超常磁性を示す直径が約10nmの超微粒子です(右図参照)。

    すなわち磁石を近づければ磁石に引き寄せられますが、その際、磁石のN極-S極に構成される磁力線に沿って配向しようとします。この配向しようとする力と磁性流体の持っている界面張力の拮抗の結果、磁性流体の表面は写真のようなトゲトゲ状となり、これを「スパイク現象」といいます。そして磁石を遠ざけるとなんの変哲もない流体として挙動します。

    磁性流体の構成

    磁性流体の種類

    一般的に磁性流体は溶媒の種類によって分類されています(下表参照)。

    磁性流体シール用としては、蒸発性の問題から水ベースは用いられず、種類が豊富で価格が手ごろなことから炭化水素油ベース磁性流体が用いられます。

    しかし、近年は低蒸気圧性、科学安定性、耐熱性などの要求される特殊環境下での使用が増加しており、このような場合にはふっ素油ベース磁性流体が用いられます。

    磁性流体の種類

    種類 水ベース磁性流体 炭化水素油ベース 磁性流体 ふっ素油ベース 磁性流体
    ベース液 アルキルナフタレン パーフルオロポリエーテル
    飽和磁化(mT) 20 29 35
    粘度(mPa?s) (293K) 7 440 <10000
    蒸気圧(Pa) (293K) 3.0×10-7 7.3×10-11

    磁性流体シールの基本構造

    磁性流体シールは、原則的には磁性流体が「磁石にくっつく」という性質を利用したもので、下図の様な基本構造になっています。磁石によって回転軸(シャフト)と磁極片の間に構成される磁力線に沿って磁性流体が保持され、磁性流体のシール膜(いわば磁性流体のOリング)が形成されます。

    磁気回路

    磁性流体シールの特徴

    磁性流体シールの特徴は、オイルシールなどのように固体と固体の接触ではなく、固体と液体の接触であるということです。

    したがって、摩耗がなく、摩擦抵抗が極めて小さく、完全に密封することができるといった長所があります。その半面、磁性流体が溶け出したり往復運動によって持ち去られたりするといった欠点があるため、液体シールや往復動シールには適しません。 一般的な特徴を下表に示します。

    磁性流体シールの特徴

    長所 短所
    1. ①密封性、非発塵性を有する
    2. ②低摩擦トルクである
    3. ③低発熱、低騒音である
    4. ④回転、静止時ともに密封性を有する
    5. ⑤設計が容易である
    1. ①耐熱性に限界がある(約430K)
    2. ②液体のシール性に欠ける
    3. ③往復動のシールに適さない
    4. ④高圧シールに適さない

    磁性流体シールの種類

    メカニカルロスが少なく、密封面からの発塵がないといった特徴を生かして、回転軸の気体のシールに用いられています。

    <この場合、シールする気体の圧力の有無によって、ダストシールと真空シールに分類されます。

    ダストシールは大気中の塵や埃をシールするもので、クリーンルーム内のさまざまな機器やコンピュータのハードディスクのシール等に用いられています。

    真空シールは、分析装置や半導体製造装置に代表される真空場を確保するために使用されます。しかし単段の磁性流体シールで密封できる圧力はせいぜい0.8×105Pa程度といわれているため、磁極片を多段に構成して圧力を分担させ、大気圧の圧力差をシールしています。

    磁性流体シールの種類

    磁性流体の耐圧性

    磁性流体単段の密封圧力はせいぜい0.8×105Pa程度といわれているため、耐圧性が必要な場合には下図に示すような多段の構造とする必要があります。またギャップを小さくすること、先端角度を最適値にすることにより密封圧力は高くなります。

    多段シールの構成例 ギャップと密封圧力グラフ 磁極片の先端角度と密封圧力グラフ

    磁性流体の使用環境

    被密封流体:空気、ダスト、オイルミスト、活性ガス、不活性ガス等広範囲の実績があります。下図に磁性流体のベース液毎の蒸気圧を示しますがふっ素油ベース磁性流体の蒸気圧は炭化水素油ベース磁性流体に比べて低く、極高真空シールとして適していることがわかります。

    温度:磁性流体は温度が高くなると磁性が弱くなり、キュリー点で完全に磁性が消滅します。したがって高温になるほど密封圧力は低下します。

    回転速度:回転速度の増加に伴い密封圧は低下します。これは磁性流体の内部発熱、あるいはベアリング部からの熱伝導による発熱と遠心力により密封に対して有効に働く磁性流体の量が減少するためです。

    磁性流体の蒸気圧線図 温度と密封圧力グラフ 軸の回転速度と密封圧力
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